1. ASDの場合
正式名称: 自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)
ASDは、脳の機能が少しだけ異なるために、人とコミュニケーションや社会的なやり取りが苦手な障害です。具体的には、次のような特徴が見られます。
- コミュニケーションの苦手さ: 相手の気持ちや意図を理解するのが苦手。会話がうまく続かなかったり、冗談や皮肉を理解できなかったりする。
- こだわり: 興味のあることに強くこだわる。興味のないことには無関心だったり、決まったやり方に固執したりする。
- 想像力の欠如: 場面に合わせて行動を変えたり、物事を別の視点から考えたりすることが難しい。
- 感覚過敏: 音や光、匂いなどに対して過敏に反応し、不快感を感じたり、集中力を妨げられたりする。
- 感覚鈍麻: 音や光、匂い、触覚などに対して鈍感。細かい作業が苦手。
- 運動機能:紐を結びにくい、ボタンをかけづらいなどの不器用さ(運動機能障害)を持っている場合も多くあります。
就職を考えるうえでの困りごと
- コミュニケーション: 学校や支援センターなどに自分で働きかけづらい。面接での自己PRが苦手。誤解が生じやすかったり、黙ってしまうことがある。複数人面接などで発言しづらい。
- こだわり: 決められた手順やルールを守るのが苦手。自分が得意なこととやりたいことが乖離している場合、採用条件などを度外視してしまう。
- 変化への適応: 応募から面接へ、先が読めないまま進むことがストレスとなる。また、電車で知らない場所に行ったり、苦手な音が多い場所に行かなくてはいけなかったりして、食欲がなくなったり、逆に食べすぎたり、薬の飲み忘れで体調が悪くなることも。
実際の職場で起こりうる困りごと
- コミュニケーション: 上司からのFB内容の理解がしづらい。職場の同僚とのコミュニケーションが苦手で、時には孤立してしまうことがある。チームワークが必要な仕事が難しい。昇給や評価がかかっている面談での自己PRが不得意。
- こだわり: 決められた手順やルールを守るのが苦手、あるいはあいまいな指示が許せなくなりがち。職場独自のルールや人間関係にストレスを感じる場合も。ケアレスミスをしたり、周囲に迷惑をかけたりしてしまうこともある。
- 変化への適応: 新しい部署や仕事内容に慣れるのが苦手。ストレスを感じやすかったり、体調を崩してしまうことがある。また、大きな声で話しかけられたり、騒音が多かったりする職場だと集中しづらい。在宅勤務やイヤーマフなどの配慮を許可してもらえないと我慢しなくてはいけない。
2. ADHDの場合
正式名称: 注意欠陥・多動性障害(Attention Deficit Hyperactivity Disorder:ADHD)
ADHD(注意欠陥・多動性障害)は、不注意、多動性、衝動性という3つの症状が持続的に見られる発達障害です。落ち着きがなく、集中力が持続しにくいという特徴があり、思いついたことをすぐに実行してしまうなどの困難さも抱えます。具体的には、次のような特徴が見られます。
- 不注意: 興味のないことにはすぐに注意が移り、忘れ物やミスが多い。
- 多動性: じっとしていられず、そわそわしたり、動き回ったりする。
- 衝動性: 考えずに行動してしまい、後先を考えずに発言したり、行動したりする。
就職を考えるうえでの困りごと
- 集中力: 長時間集中して作業するのが苦手で、ケアレスミスをしたり、納期に間に合わなかったりしてしまうことがある。必要な持ち物を忘れる、話を聞いている途中で気が散ってしまう、長時間集中して作業するのが難しい。
- 時間管理: 時間の感覚がつかめず、遅刻や早退が多い。
- 衝動性: 面接で不用意な発言をしてしまう。仕事中につい余計なことを言ってしまったり、指示を無視して行動してしまうことがある。会議中に立ち歩いたりそわそわしたりしてしまう、上司の指示を待たずに勝手に行動してしまう
3. LDの場合
正式名称: 学習障害(Learning Disability:LD)
学習障害(LD)は、読む、書く、計算するなどの学習能力に困難さを抱える障害です。脳の機能が一部異なるために、知的な能力は平均並みなのに、特定の学習面に困難さを生じます。具体的には、次のような特徴が見られます。
- 読字障害: 文字を読むのが苦手で、誤字脱字が多かったり、文章の内容を理解できなかったりする。
- 書字障害: 文字を書くのが苦手で、字が汚かったり、書き順を間違えたりする。
- 算数障害: 計算するのが苦手で、数字を間違えたり、計算方法を理解できなかったりする。
就職を考えるうえでの困りごと
- 学習: 仕事に必要な知識やスキルを習得するのが苦手で、周囲に比べて時間がかかったり、理解できなかったりする。書類を読むのが苦手、指示書の内容を理解するのが難しい、数字を扱う仕事が苦手、経理や事務の仕事が難しい
- 筆記: 議事録や報告書の作成など、筆記を伴う仕事が苦手で、ミスをしたり、時間がかかったりしてしまうことがある。履歴書や職務経歴書を書くのが苦手、メモを取るのが難しい
- プレゼンテーション: 人前で発表するのが苦手で、声が小さく聞き取りにくかったり、内容がまとまっていなかったりする。
4. ASDとADHD併発の場合
ASDとADHDは、単独で発症することもあれば、同時に発症することもあります。ASDとADHDを併発している場合、それぞれの障害の特徴が複雑に絡み合い、より困難な状況となることがあります。
就職を考えるうえでの困りごと
- コミュニケーションと集中力の両方が苦手
- 集中と時間管理が特に苦手で、遅刻する・欠勤するなど面接や仕事に支障をきたす場合がある
- ASDとADHDそれぞれの困りごとが重なり合ってより困難な状況になる場合も多い
- 周囲の理解とサポートがより重要になるが、「甘えだ」など言われがち
5. グレーゾーンの場合
発達障害の診断基準を完全に満たさない方もいます。このような人は、発達障害グレーゾーンと呼ばれています。グレーゾーンの人は、日常生活に支障をきたすほどの困難を抱えていないことが多いですが、就職活動や仕事で困りごとを感じることもあります。
就職を考えるうえでの困りごと
- 軽度のため、周囲の理解を得にくい
- 発達障害と診断されていないため、必要なサポートを受けられない
- 「甘えている」など周囲から理解されにくいため、孤立感を感じやすい
- 自分自身が特性をきちんと理解していないため、就職活動や仕事で困難を感じる場合も多い
まとめ
発達障害には、ASD、ADHD、LDなどがあり、それぞれ異なる特徴と困りごとがあります。就職活動や実際の仕事場で困りごとを感じることもありますが、自分に合った仕事を見つけることは可能です。発達障害に関する情報収集や、周囲の理解とサポートを得ることで、困難を乗り越え、充実した仕事生活を送ることができます。
まず就職を考える際には、自分の特性を理解し、自分に合った仕事や職場を見つけましょう。そして近年では、発達障害者向けの就労支援機関や、大学・専門学校の就職支援センターなど、就職を支援する制度やサービスも充実してきています。ここを見ているあなたなら大丈夫!積極的に探して、活用してみてください。
※補足
- 発達障害は生まれつきのものであることが多いですが、原因は完全には解明されていません。
- 発達障害の治療法はありませんが、投薬や療育、支援を受けることで、症状を改善させたり、日常生活に支障をきたさないようにしたりすることも多くあります。
- 発達障害は、決して恥ずかしいことではありません。自分自身の特性を理解し、周囲に理解を求めていくことが大切です。